今回の記事は、無意識に効果的なパフォーマンスを発揮できる運動習得のレベルとそのパフォーマンスをプレッシャーの掛かった状況の中で発揮できるようになる条件について説明したいと思います。
脳の仕組みから考える運動学習と身につけたパフォーマンスを発揮するためのセルフコーチングの話ですので、アスリートや指導者の方には、この記事を読んで実践してほしい内容になっています。
試合で通用するパフォーマンスが身につくまでの3ステップ
アスリートが無意識に高いパフォーマンスを発揮できるようになるためには、3つのステップに分けて練習をすることが望ましいと言われています。
その3つのステップとは、認知段階、連合段階、自動化段階と言われています。
パフォーマンスを動作のやり方を強く意識しなくてもイメージしているプレーができるようになる段階が自動化段階ですが、自分が身につけたいスキルをその段階までに効率よく持っていくためには、それぞれの段階で何が重要かを理解して練習する必要があります。
認知段階
認知段階とは、眼で見た動作を繰り返し行って習得していく段階。
言葉で指導を受けるのではなくお手本となるプレーや動作を見て、まずは見よう見まねで繰り返しながら動きを習得していく。
この段階で言葉による指導を受けても動きの感覚を掴めていないので、聞いた言葉を動作をして上手く表現できないので、まずは眼で見たものを自分の感覚で体の動かし方を想像して繰り返し練習することが必要です。
習得したい動作に近い動作を身につけている人は動作の習得がスムーズです。
例えば、大人になってゴルフを始める人が野球や剣道などで高いレベルのスキルを持っていた場合、長いものを振ってインパクトの瞬間に力を集中させる感覚を身につけているのでゴルフの上達が早くなるという感じです。
連合段階
連合段階とは、認知段階で習得した動作の感覚に言葉によって形成されたイメージを加えて上達を促していく段階。
別の言い方をすれば、視覚情報と聴覚情報を重ね合わせながら運動を学習していく段階だと言えます。
この段階では指導者による言語的な指導が選手の上達につながるのですが、選手がイメージしやすい言動で指導することが求められます。
指導者の言葉が選手にとってイメージするのに難しいものであった場合には状態につながりにくくなります。
この段階での運動学習は、過去に複数の競技を経験している人の方が進みやすい。
なぜなら指導者から受ける指導をイメージ化しやすくなるからです。
連合段階の初期は、動作を生み出すために小脳の力に頼っているため自分の運動のイメージを言語化することが難しいのですが、連合段階が進んでいくと運動イメージの言語化も進むので運動に関する感覚が磨かれていき、自分のパフォーマンスについて言語化できるようになってきます。
意識すると身につけたスキルを発揮できるようになった上で、パフォーマンスに関する言語化が厳密になってきたら連合段階はかなり進んでいると考えていいでしょう。
自動化段階
自動化段階は、意識せずに状況に応じた動作を行うことができるようになる段階。
この段階になると、作戦を意識しながらプレーをしたり、相手の表情や動作を見たり、心理を読みながらプレーを行うことも可能となる。
この段階は、運動を大脳の働きによって制御ができるようになっているので、意識的に微妙な動作の違いを調整できるようになる。
感覚の細分化が進でいる状態と言い換えることもでき、相手との距離をセンチ単位で調整したり、力の出力も何段階かに分けて調整することができるようになる。
ただ、疲労感が高いと自動化された運動を発揮を上手く発揮できなくなってしまいます。
これは練習によって身体的な疲労が溜まっていることも当てはまりますが、試合中にスタミナ切れを起こした時も該当します。
そのため自動化段階まで進んだ技術を発揮し続けるためには、体力をつける必要も出てくる。
また、心理的な負荷が掛かった時も自動化が解除されて、求めてるスキルが意識しないと発揮できなくなってしまう。
プレッシャーが掛る条件下では、脳が自動化から意識化に切り替わってしまうのです。
アスリートが実力を発揮するために必要な感覚の言語化
プレッシャーが掛かる状態で実力を発揮するために必要なのは、自分のパフォーマンスを発揮するための“感覚”。
パフォーマンスの再現性を高める感覚を言語化して、試合中に意識することでプレッシャーの掛かる場面で自動化されたパフォーマンスを発揮できるようになるのです。
私はアスリートには自分のパフォーマンスを言語化してもらうようにしています。
言語化してもらう内容は人によって違っていて、そのアスリートのパフォーマンスを支える根幹になっている感覚であることが望ましいです。
これを意識すれば自分のプレーが再現される、または意識することで自分のプレーの質を取り戻せるというものを見つけてもらって、プレッシャーの掛かる場面でも「上手くやらなければ」、「失敗したらどうしよう」、「何としてもたかなければならない」という思考に脳が支配されるのではなく、“今、ここ”に発生している感覚に意識を向けてもらうのです。
言語は感覚の細分化を促す
距離、長さ、重さ、高さ、圧力などに関して、自分が感じている程度を言語化するようにすると、感覚の違いに脳が気付けるようになります。
細分化された感覚は、わずかな違いが勝敗を分ける状況において判断の手掛かりとなります。
感覚の違いに敏感であるからこそ、より適切な距離感、タイミング、力加減、動き方などの調整が可能となり、状況に応じた動作の使い分けも可能となるでしょう。
勝負ごとにおいて勝利への思いは必要ですが、それだけに脳が捉われてしまうと感覚の違いに鈍感になって適切なプレーの選択ができなくなってしまいます。
アスリートには、自動化段階に入った自分のプレーについては、普段から感覚の言語化を行って何を意識すればプレーの再現ができるのかを探す癖をつけてください。
ここで見つけることができた感覚がプレッシャーの掛かる状況の中で自分らしいパフォーマンスを引き出してくれるのです。
自分の感覚を言語化して人に説明したり、自分に言い聞かせるようになると、相手との距離感、相手の動作、表情、ボールやその他道具の重さや太さなどいろんな感覚が細分化されて敏感になります。
またプレー中の重心、力の入れ方、手や足に伝わる感触などへの感度も増してきます。
その上で、競技やプレーによって異なると思いますが、自分のパフォーマンスを支えている感覚を見つけて、それを試合の中で意識するようにしてみてください。
コーチングは自分の感覚を細分化する機会
アスリートのコーチングを行う時、感覚の細分化になるような質問をすることがあります。
できるだけ詳細に自分のスキル、試合で体験している世界などを説明してもらいます。
なぜこのようなことをするかというと、人間の見ている世界は、本人の言語の厳密さによって切り分けられ方が変わってくるからです。
例えば、剣道やボクシングなど、相手との間合いが勝敗を決める重要な要素になる競技なら、この間合いをどれくらい細かい単位で認識しているか、自分の攻撃が有効となる間合い、自分にとって危険な間合いをできるだけ細かく認識していることによってパフォーマンスが違ってきます。
哲学者のウィトゲンシュタインは、「言語の限界が世界の限界だ」と言ったそうですが、この言葉からは自分の感覚をどこまで細分化できるかがアスリートのパフォーマンスの限界を高めることにつながっていると考えることもできると思っています。
アスリートの中でも、自分の感覚を伝える言葉を慎重かつ丁寧に選んで話しているという印象を持つ選手がいますが、そのような選手は感覚の細分化も進んでいると感じられます。
自分の感覚の細分を促進するにはコーチングは適した選択肢だと思います。
より高いパフォーマンスを追求するために感覚の細分化を進めたい方はコーチングを活用してください。
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