試合で自分の実力が十分に発揮できないという悩みを抱えたアスリートからの相談をうけていますが、その原因はチョーキングという現象が起きていることが多いです。
試合でチョーキングが起きるのは、会場の雰囲気のまれたり、勝たなければならない、ミスは許されないという思いが心身の大きな影響を与えているからです。
おそらくこの記事を見ている方の中には、チョーキングを経験したことがある人も多いのではないかと思います。
パフォーマンスを低下させるチョーキング
チョーキングは、精神的な圧迫感、筋肉の硬直によって普段できている動きができなくなっている状態です。
チョーキングには「息が詰まる」、「窒息する」という意味がありますが、実際に緊張によって呼吸筋が硬直して上手く働かず息苦しさを自覚しているという選手もいます。
チョーキングは、会場の雰囲気や試合の重要性や試合展開、記録が掛かっているという外的刺激と対戦相手が自分より強いまたは弱いという決めつけ、ミスをしてしまうイメージ、監督やコーチからの評価を下げたくないという思いなどの自分の心の中で発生する内的刺激によって心が不安になり、それが身体反応としても表れている状態です。
チョーキングを引き起こす背側迷走神経とは
チョーキングという現象から考えられるのは、迷走神経が刺激されて「凍り付き反応」が出ている状態だということです。
迷走神経というは、延髄からでて、外耳道、耳介、咽頭、喉頭、胸腔内臓器(気管、気管支、肺、心臓、食道)、腹腔内臓器(胃、腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓)などに分岐している神経で、体内のあちこちから脳の情報を送っている神経です。
この神経には腹側迷走神経と背側迷走神経があり、スポーツの試合などのプレッシャーが掛かる場面で活性化してしまうのが背側迷走神経です。
背側迷走神経が活性化すると、凍り付き反応(フリーズ)が起きて筋肉が硬直化しようとするため試合の時に体が重く感じられる、息が苦しくなるということが起きるのです。
試合前に吐き気がするという選手がいますが、それも内臓の働きが凍り付き反応で低下することによって生じていると考えられます。
これまでアスリートの相談を受けてきた経験から、思春期を迎えている、試合で大きなミスをした、監督やコーチとの関係が上手くいっていない、神経質で完璧主義な性格といった状態のアスリートは凍り付き反応(フリーズ)によるパフォーマンスの低下を起こしやすいと感じています。
実力発揮のカギとなる腹側迷走神経とは
背側迷走神経が凍り付き反応(フリーズ)を生み実力の発揮を妨げるわけですが、腹側迷走神経を働かせることによって実力を発揮しやすい状態を作ることができます。
腹側迷走神経とは、生物の進化の過程で哺乳類以降の生物に備わっている高次な神経で、他人との関係を構築して安心と安全を得るために働く神経です。
腹側迷走神経が発達することで、プレッシャーを感じる中でも周囲からの応援や期待、チームメイトの存在を力に変えることができる心理状態を保てるようになります。
緊張しつつも感情のコントロールを失わない心理状態を「耐性領域(耐性の窓)」といいますが、腹側迷走神経が働きやすい人は耐性領域を保ち試合の中で実力発揮の再現性が高いのです。
腹側迷走神経は安心できる人間関係によって発達するのですが、スポーツにおいては指導者やチームメイトとの信頼関係を高めることが望ましいと言えます。
私がスポーツチームをサポートする時は、ワークショップを行って心理的安全性を高めるミーティングの方法を実践してもらい、その方法を日頃のミーティングでも行ってもらうようにして選手同士の信頼関係を高める機会づくりをしていました。
ただ、指導者やチームメイトとの関係構築は相手もあることなので自分の意識や行動だけで作れるものではありません。
自宅で一人で取り組める方法としては、呼吸法によって日頃から神経の働きを落ち着かせる習慣を作ることをお勧めします。
また、試合の中での安心感を高めるためにはイメージトレーニングを行うことが必要です。
試合の中で起きるさまざまな状況に対して自分がどのように対応するかをイメージして心の準備をするということを習慣化してください。
実力を発揮するためのメンタルコーチング
コーチングを受けることも実力を発揮できるようにするための手段です。
コーチングがチョーキングの対策になる理由は以下の通りです。
- 話を聴いてもらうことで自己理解、自己肯定感が高まる
- 知識を学ぶことで自分の状態を冷静に分析できるようになる
- 自分を応援してくれている人の存在に気づくことができる
- メンタルトレーニングを学ぶことができる
コーチングを繰り返し受けることは自分の心の中の耐性領域も拡大されるので、プレッシャーを受けて緊張感が増しても実力を発揮できる力が高まるのです。
またコーチングを通じたメンタルトレーナーとの信頼関係が高まると腹側迷走神経が働きやすくなると考えられるので、信頼できるメンタルトレーナーを見つけておくことは長い競技生活の中で自分の心を整えることができる環境づくりにもなると言えます。
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