緊張という心の課題を克服する方法

スポーツにおける緊張

競技に真剣に打ち込むほどメンタル面の課題となっていくのが緊張への対処です。
スポーツの緊張への対処について情報を求めてインターネットで検索している人も多いようです。

この記事は、緊張を克服したい、緊張感を和らげる方法を知りたいという方のために、緊張のメカニズムや緊張をコントロールする方法についてまとめたものです。

緊張とは何かを理解することから克服が始まる

緊張して試合で力が発揮できない人は、緊張しない方法や緊張が治まる方法を探し求めてしまいますが、そんな方法はありません。
緊張は無くすのではなくコントロールするものです。

緊張をコントロールするためには、緊張とは何かをよく理解することが大切です。
もしあなたが緊張をして力が発揮できないと感じているのなら、それは心が弱いからではなく緊張とは何かという理解が間違っているからかもしれません。
もしくは、緊張をコントロールする方法が間違っている可能性もあります。
この記事は少し長いですが、緊張の正体や緊張をコントロールするためのメンタルトレーニングについて説明しているので、しっかりと読んでみて下さい。

緊張とは脳が生み出す闘争(反応)反応である

アスリートがパフォーマンスを発揮するための課題としている緊張の克服。
その緊張の正体についてお話ししたいと思います。

緊張とは、ストレスを受けて脳に生じた闘争(反応)反応です。

原始時代、人間は生きていくために身の危険を感じた時に、瞬時に体が闘う、または逃げるための準備ができるようになりました。
例えば、肉食動物に出会った時、命の危険というストレスに脳が反応して心臓が高鳴る、汗ばむ、呼吸が荒くなるなど、瞬時に闘うか逃げるかできる状態になります。

このストレスに対する脳の反応、それに伴う体の変化を『緊張』といいます。
緊張は、闘う、もしくは逃げるという通常よりも運動能力を高めてる必要のある行為の準備なので、スポーツにおいても必要不可欠なものなのです。
試合前などには、「緊張するな」、「緊張してるのか?」と言われることがあると思いますが、緊張は試合をすることを意識したら起こるし、自分の力を出し切るために必要なものなので、アスリートとして受け入れてコントロールできる力を身につけることが大切です。

緊張しないアスリート

いつも緊張してしまうという自覚のあるアスリートがいる反面、自分は緊張しないというアスリートもいます。
しかし、緊張がストレスを受けた人間に生じる闘争反応であれば、試合を控えて緊張しないということはありません。
緊張していないと良いパフォーマンスが出せないからです。

では、緊張しないアスリートは何が違うかというと、緊張によって生じる体の反応を不快だと思わないという点だと思います。
緊張していると自覚しているアスリートは、緊張によって生じる体の反応を少なからず不快だと思っていて、この不快感が緊張はしない方がいいという認識になった要因だと思います。

悪い緊張

英語では、悪い緊張と良い緊張は違う単語で表現されます。
英語では、悪い緊張のことを『Nervous』といいますが、これは不安や恐怖で神経が高ぶり、イライラしやすくなっていたり、悪い予測ばかりしてしまう状態です。
あなたが緊張することが良くないものだと感じているのは、緊張しているという自覚がある時にパフォーマンスが良くなかったという体験があるからではないでしょうか。
実際に緊張していると感じて、パフォーマンスが思うように発揮できなかったということは多くの方が体験していて、試合前には緊張していない方が良いと思っておられるのだと思います。

このような体験が起きる理由は、緊張の中でも『過緊張』という状態になっているからだと言えます。
簡単に言うと緊張のし過ぎですね。
人間の脳は、自分の命を守るということを最優先にするので、試合前に緊張しはじめて不安が大きくなり、悪い結果ばかり予測し始めると無意識に自分を守ろうとしてしまいます。

スポーツでは、体が縮こまり防御の体制を取りやすくしておこうとしたり、汗が出すぎ、呼吸は浅くなるというようなことが起きてしまうのです。
これは緊張したから起きることではなく、緊張をコントロールできないから起きることなのです。

良い緊張

反対に良い緊張とはどのような状態なのでしょうか。

良い緊張は、英語では『Excited』と言いますが、これは興奮する、ワクワクするという状態を表す単語です。
良い緊張とは、試合という刺激によって体は緊張状態になっていても、呼吸が落ち着いていて、頭は冴えている、そして試合を行うことへの期待感のようなものが心の中にある状態です。

試合という刺激がある以上、闘争反応は生まれるので、体も自然と試合ができる緊張状態になろうとしますが、不安や恐怖は抑えられていて、冷静に試合をすることを楽しみに感じている
心境もあることが感じられているような状態です。

メンタルトレーニングを身につけようと考えておられる方は、試合を迎えると自然と生まれる緊張という反応をコントロールして、不安を感じつつも心の奥にある期待感、高揚感を感じて試合を待っている状態を作る手段としてメンタルトレーニングが有効だと認識して頂ければと思います。

緊張のメカニズム

緊張とは闘争反応だと説明しましたが、この反応によって自律神経の働きに変化が起ります。
緊張していると感じるのは、平常時とは違う自律神経の働きを感じ取っているのです。

自律神経とは、『意識しなくても生きるために体に命令を送っている神経』です。
例えば、お腹が空いたら空腹感を伝えたり、熱ければ汗を出して温度調整をしたり、意識をしなくても呼吸をしていたりするのは、自律神経の働きによるものです。
この自律神経には、交感神経副交感神経というものがあります。
交感神経は、緊張している時に働きが活発になり、副交感神経はリラックスしている時に活発に働いています。

スポーツで試合をすることを意識すると、試合という刺激が脳に伝わり、交感神経の働きが活発になることで、内臓などの血管が収縮して脳と筋肉に血液が多く流れたり、呼吸が激しくなったり、少し汗ばんだりと身体が戦うために準備をはじめるのです。
また、試合が終わってホッとする時は副交感神経の働きが自然と活発になり、心身ともに休息に向かいます。

このように2種類の自律神経にそれぞれの役割があるのですが、スポーツで緊張して力が発揮できないという時は、交感神経の働きが強くなっている場合が多いのです。
試合をするからといって交感神経ばかりが働いてしまうと、体に過剰な反応が出てしまいます。
その過剰な反応とは、筋肉の強張りであったり、呼吸の乱れであるためにパフォーマンスの低下につながるのです。
ストレスを受けると自律神経自体はどうしても反応してしまうので、反応によって生じた体の状態を自分の行動によって整えることが緊張をコントロールしてパフォーマンスを発揮するための方法であり、その技術がメンタルトレーニングなのです。

緊張をコントロールする呼吸法とイメージトレーニング

緊張をコントロールする呼吸法

緊張を上手くコントロールすることは、スポーツにおいて重要なことですが、緊張しないでおこう、いつも通りの気持ちになろうと考えても効果はありません。
そもそも緊張することは、良いパフォーマンスを発揮するための条件ですので、緊張をすることによって生まれるエネルギーをどのようにパフォーマンスに活かせるかがスポーツにおけるメンタル面の課題です。
では、緊張をコントロールするにはどうすればいいかということですが、それは自分の意思で行動をコントロールして、行動によって生まれる影響で緊張反応をコントロールするのです。

人が緊張をしている時は、自律神経の交感神経が高まっているということを上記で説明しました。
試合という刺激によって交感神経は勝手に活発になるので、バランスを取るために副交感神経も刺激しなければ過緊張になってしまいます。
過緊張にならないように交感神経と副交感神経のバランスを取るための方法が【呼吸法】です。
緊張感が高まると、気づかないうちに呼吸が浅くなってしまい交感神経ばかりが活発になるので、腹式呼吸によって呼吸を深くするのです。

呼吸法のやり方

人間は息を吸う時に交感神経が優位になり、息を吐いている時には副交感神経が優位になります。
まずは、ゆっくりと鼻から息を吐き、吐き切ったら自然と鼻から息が吸えるので、吐くことと吸うことをセットで1回として、1分間に3回から7回くらいのペースでゆっくりと腹式呼吸を行って
下さい。
この時に目を閉じておくことで、呼吸に集中しやすくなります。
自律神経を整える呼吸法は、息を吸う長さと息を吐く長さが同じくらいになるように心掛けて下さい。

呼吸法のポイントは、鼻で呼吸をすることです。
鼻で呼吸をすることで、空気を暖め、空気中の細菌を減らし体内に綺麗な酸素を取り込むことができるので、くれぐれも鼻で呼吸をすることを忘れないで下さい。
さらに1分間で7回以下の呼吸回数になるように呼吸の回数を数えてください。
意識を『今』に集中させて不安や迷いを断ち切るためには、不安や迷いを打ち消そうと思ってはいけません。
不安や迷いについて意識を働かせる余裕がないように呼吸数に意識を向けるのです。

脳は考えないということができないので、不安や迷いについて考えないためには、別のことに意識を向けることが必要であり、それは呼吸法によってもできるのです。
普段から腹式呼吸の練習をして、呼吸をしているの頭が楽になる、穏やかな気分になるということができるようになると上手くできていると思って下さい。

日常では、試合のように緊張することも少ないので上記のような感覚が得られたら上手くできているということです。
試合のように緊張することが当然という環境では、呼吸法によって意識を集中させることができ、良いパフォーマンスを発揮できる心身の準備をするというつもりで呼吸法を行って下さい。

呼吸法からイメージトレーニングへ

呼吸法が上手くできて緊張していても、心身が充実しているような感覚を得ることができたなら、呼吸を整えながらパフォーマンスのイメージを描くようにして下さい。
緊張状態を呼吸でコントロールできているということは、能力を発揮できる準備ができているということでもあるので、自分の体をどう動かすのかを明確にイメージできるといいかと思います。
では、イメージトレーニングのコツをお伝えします。

体やボール、道具の動きをイメージする時は、軌道を描くようにする。

動きをイメージする時、動きの結果だけを明確に描く人もいますが、それはイメージというよりは願望を思い浮かべているだけです。
実際、競技力の高い選手ほど、軌道をイメージしているという研究結果も出ているので、動きの軌道を描く癖つけてください。

起きてほしくないこと、したくないことをイメージしてはいけない

『~しないようにしよう』、『~してはダメだ』という意識を強くすると、脳内では望んでいない動き、プレーの結果のイメージが強化されてしまいます。
それは人間の脳が、意識して願ったことは、イメージに変換されて無意識に刻まれるからです。
意識を働かせている脳の部位は文章を理解できるのですが、無意識を働かせている脳の部位は文章が理解できないためイメージとして思ったことを残そうとします。

その際に、『~しないようにしよう』、『~してはダメだ』と意識していると、その動きと結果がイメージ化されてしまうのです。
イメージトレーニングは、自分がしたい、こういう結果になってほしいということをもとに、それにつながる動きやボールの軌道を明確に描くようにして下さい。

闘うための準備となるビジョントレーニング

ビジョントレーニングは情報処理能力を向上させる

スポーツは、競技によって違いはあっても脳の情報処理能力が、パフォーマンスの精度を左右します。
具体的に言うと、目で見た現実をもとに、予測する、場合によっては予測を修正する、そして予測したイメージにタイミングを合わせて、正確に動くように体に命令を出すという情報処理を行っているのです。
しかし、この情報処理能力は、意識が『今』に集中していななければ正常に働きません。
なぜなら、スポーツのパフォーマンスにおける情報処理能力は、今、目の前で起きていることに対処しようという能力だからです。

例えば、過度に失敗を恐れてプレーをしている時というのは、プレーの失敗や試合の敗北という『未来』に意識が向いていて、『今』に意識が向いていないため、正確な情報処理ができなくてパフォーマンスもズレてしまうのです。

本来、緊張状態は、危機に対する対処を行うために脳の情報処理能力を上げている状態なのですが、メンタルの難しいところは、不安や迷いが意識を『今』ではなく『過去』や『未来』に移してしまうので、緊張によって高まった情報処理能力は同じく緊張によって生じる不安や迷いによって低下してしまう点です。

情報処理能力の低下は、反応の遅れ、判断の遅れ、動作のズレを生むだけでなく、時には筋肉の硬直につながって極度のパフォーマンス低下を招くことがあります。
情報処理能力が正しく働くということは、試合の中で望ましいパフォーマンスが選択できるということでもあります。
私は、情報処理能力を向上、維持、回復させる手段としてビジョントレーニングというものを提案しています。

脳の情報処理能力を上げるビジョントレーニング

では、具体的にビジョントレーニングについて説明させて頂きます。

ビジョントレーニングとは、眼の機能を高めるトレーニングで、周辺視野の拡大、深視力、瞬間視、追従視の強化、眼と手の協調性の向上などを目的としています。
そのため、ビジョントレーニング本来の目的は、上記のような視機能全般の強化なのですが、情報処理能力を高める効果があるためメンタルトレーニングとして提案しています。

人間の心の状態に影響を与えている要素の一つが、眼から得た情報です。
そのため、眼から脳に伝わる情報に誤差があれば、それは当然パフォーマンスの誤差として現われます。
眼が脳に伝える情報もメンタルを構成する要素の一つなので、眼から取り込む情報の質と量を上げるためにも目のトレーニングはメンタル面の向上のために重要なのです。

ビジョントレーニングが情報処理能力を上げる理由

視機能を鍛えるということは、眼から取り込む情報の質と量を上げるためであり、そのことによってパフォーマンスの質を上げるためです。
ビジョントレーニングで視機能が向上すること自体が、パフォーマンスの向上につながるのですが、
視機能の向上によって眼の前の状況を情報として脳に伝える力が向上することがメンタル面にも影響
を与えるのは以下のような理由があるからです。

脳が眼から多くの情報を取り込み処理しようとしている状態は、眼から入ってくる情報、すなわち現実に意識を向けなければならなくなっている状態です。
眼の神経は、直接脳につながっているため、脳は眼から入ってくる情報によって状態が左右されます。

試合をする前、試合中など、悪い結果が出た時のことや過去の対戦結果による印象についてあれこれ考えてしまうこともあります。
そんな時、『ちゃんと集中しなければ』と思っても同じ思考が繰り返されて集中することができません。

そんな時にビジョントレーニングの出番なのです。
日常のトレーニングとしてだけなく、試合前の心の準備としてビジョントレーニングは使えるのです。
それは、人間の脳は、思考ばかりが強く働いている時、簡単に言うと考え事をしている時は、今ある脳内の情報をもとに考えをまとめようとするために新しい情報は邪魔になるため、情報処理能力を低下させています。

スポーツの場合、試合前で不安や迷いが強く、同じことを堂々巡りで考えてしまっている時は、新しい情報が入ると余計に不安や迷いが強くなるから新しい情報を無意識に拒否するために情報処理能力が低下してしまうのです。
考え込んでいる人の眼の焦点がどこにも合っていない時は、まさに考え事をしていて新しい情報をシャットアウトしている時です。
ビジョントレーニングの優れている点は、上記のような状態からすぐに意識を現実に向き直させてくれる点です。
ビジョントレーニングとして眼を動かしたり、焦点を変えたりしていると、脳は今は意識を向ける対象が眼の前にあるのだと感じ、眼から入ってくる現実という情報を処理しようと活性化します。

この活性がした状態というのが、現実に意識を向け、今行うべきパフォーマンスのためだけに脳の力を発揮しようとしている状態です。

具体的なビジョントレーニングの方法はいくつかあるのですが、このページでは自分の指を使って簡単に行う方法を紹介します。

ビジョントレーニングの方法

自宅でも、練習前にでもできるトレーニングの方法は3パターンあります。

・パターン1、人差し指を立てて肩幅に開く。
・パターン2、人差し指を立てて、それを横にしておでこの少し斜め前と首の前に持っていく。
・パターン3、人差し指を立てて、一本は目の5センチほど前、もう一本はその指の直線上
に腕を伸ばして置く。

いずれのパターンも、頭を動かさずに両手の人差し指に交互に視線を移すということを繰り返します。
時間は30秒で、時間内に何往復できるかを数えてみて下さい。
この数値が向上しているということは動体視力が向上している目安になります。
目安としては、1日に3パターン×30秒×3回を行って下さい。

視線を移し続けるということは、常に新しい情報が脳に入ってきているという状態なので、脳はその情報を把握しようと活動します。
このビジョントレーニングによって脳の情報処理能力が上がることで、ボールや相手の動きに対する予測力や反応力があがるのです。

まとめ

緊張するということは、脳が体をしっかりと動かすためのエネルギーを上げている時なので、それをどう上手く活かすのかがスポーツ心理の課題です。

緊張することは、人間にとってはごく自然な脳の働きです。
競技を始めたばかりの人もトップアスリートも、試合に臨むにあたって何らかの危機感があれば緊張という反応は生まれます。
緊張すること自体が心の弱さではないということを理解いただき、緊張とうまく付き合うための技術としてメンタルトレーニングに関心を持っていただければと思います。

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