メンタル強化の4段階の変化

心の鍛錬が必要な理由

どうしてもフィジカルやスキルを取得するトレーニングに比べると、メンタル強化のためのトレーニングは継続することが難しく、いつの間にかトレーニングを止めてしまう人は少なくありません。
この理由の1つは、フィジカルやスキルに比べて目に見える変化が少ないためです。

メンタルの強化は、目に見えないため自分自身で変化を感じ取る必要があるのですが、メンタル強化の取り組みを継続している人は自分の心理的な変化に敏感であるという傾向も多くのアスリートと接してきた中でいて感じています。

変化を感じ取る力には個人差が大きいため、パフォーマンスの向上や心の安定のためにメンタル強化に取り組み、競技人生はもちろんその後のキャリアでも活躍するアスリートが増えて欲しいと思っているので、メンタル強化に取り組む必要性を理解して頂ける脳科学的根拠を説明したいと思います。

メンタル強化というのは、コーチングやメンタルトレーニングによって脳に新しい刺激を与え続け、新しい機能の発達を定着させることです。
脳は新しい刺激を受けると、神経可塑性という特徴によって下記のような4段階の変化を辿るといわれています。

すぐに効果が表れる機能的神経可塑性

メンタルトレーニングを行うとすぐに効果が表れることがあります。
それは、不安定になっていた自律神経が安定することによって、呼吸が楽になる、不安や迷いが低下して判断力が回復する、動作がスムーズになるなどの変化として現われます。

イップスになっている人が相談に来て、次の日にはほぼイップスが出なかったという報告を聴くこともありますが、これはメンタルトレーニングによってイップスになっている時とは別の神経回路が働くことによって、イップスが出なかったということです。

ただ、すぐに表れる効果というのはまだ脳に十分に定着したわけではないので、自律神経が乱れる条件がそろってしまうと悪い状態に戻ります。

数日後に効果が表れるシナプス神経可塑性

脳は新しい刺激を受け続けるとシナプスという神経伝達の接合部が増加するといわれています。
シナプスは、刺激を受け始めてから数日から数週間で変化が生じて、脳内の神経伝達の効率が向上します。

例えば、心を落ち着かせるメンタルトレーニングを始めたとしたら、数日から数週間経つとメンタルトレーニングを始めたころよりも心を落ち着かせるのが上手くなっていくという感じです。
新しい技術を身に着けようとする時もシナプスの発達は関係していて、同じ動作を繰り返していると数日から数週間で新しい技術の定着が進み始めます。

しかし、メンタルトレーニングにしても技術の取得にしても、この段階で止めてしまうと身についたものを数日から数週間の間で忘れてしまいます。
まだまだ脳に新しい神経回路が形成される初期段階なので、定着が不安定な時期だと言えます。

1ケ月後に効果が表れるニューロン神経可塑性

この段階は、シナプスだけでなくニューロンといわれる神経細胞の変化が生じる時期です。
新しい刺激を受け始めて1ヶ月ほどで生じる変化で、シナプス神経可塑性に比べてメンタルトレーニングの効果や新しい技術の習得が定着している段階です。

ただ、この段階でもメンタルトレーニングにしても技術の取得を止めてしまうと身に付き始めたものは忘れ去られると言われています。
シナプス神経可塑性の発達よりは身に付き始めたものの持続期間は長いのですが、まだまだ定着は安定していない段階です。

1年継続すると効果が表れるシステム神経可塑性

この段階は、メンタルトレーニングにしても技術の取得などを継続して、1年から数年ほど新しい刺激を脳の与え続けた段階です。
3つの神経可塑性による脳の変化がすべて安定して、ニューロン同士の新しいネットワークも生じている段階と言われています。

システム神経可塑性によって定着した脳の働きは、どんな働きかによって定着の強さに違いはありますが、新しい刺激を脳の与え続けた機関が長いほど定着機関も長いと言われています。

神経可塑性の変化からわかるメンタル強化を継続する必要性

脳の神経可塑性による4段階の変化からわかることは、心の強化のための取り組みは継続が必要だということです。
そして、多くの人が継続できない理由は、メンタル強化に取り組むと機能的神経可塑性やシナプス神経可塑性によって早い段階で効果が感じられる部分もあるからこそ、もう大丈夫だとメンタル強化の取り組みを止めてしまうという側面もあります。

例えば、イップスの改善も神経可塑性を利用して脳に新しい働きを生じさせることが改善につながっている可能性が高いのですが、早い人はコーチングとメンタルトレーニングを行った次の日に効果が表れます。
効果が表れるのが早いのは良いことなのですが、そこで安心して取り組みを止めてしまった結果、試合が近づいてきた時や試合の時にまたイップスが出てきたということがよくあります。

アスリートが身に着けている質の高い技術は、反復練習の結果として定着したものであり、何度も繰り返したことによって身に着けたという自覚が自信を生んでいる部分もあると思います。

メンタルもフィジカルやスキルの強化と同様、継続して発達を定着させることが強化のための条件です。
メンタル強化に取り組むという人は、神経可塑性の4段階の変化を思い出して頂き、心の成長を進めて頂きたいと思います。

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